「時代の衝動」

ここ最近は、浦沢直樹と山本直樹の区別もつかないほどに漫画は読んでいなかった。
漫画は嫌いではないけれど、好き…と言うほどでもない。漫画を読む機会も殆どないせいだろうか、漫画となると、題名も漫画家の名前も殆ど知らないし覚えられない。
先日、家族で久しぶりに長野駅近くに出かけた折り、ふらっと立ち寄ったブックオフで目に留まったのが、山本直樹 の『 RED 』
作者は山本なのか、浦沢なのかの区別もおぼろげだったものの、以前から『RED』は、気になっていた。
1巻から3巻を大人買い したまま、しばらく読めずにいた RED のページをめくった。

『RED』は、1960年代末から1970年代初頭にかけての、日本の新左翼運動の中で起こった事件をテーマとした作品。フィクションであるとされてはいるものの、内容は、かつての連合赤軍事件をかなり忠実に再現しているという。

一連の連合赤軍の事件からは既に40年が経過した。
リアルタイムに記憶しているのは、少なくとも50歳以上の人々だろうか。
…当時、保育園から小学生だった自分には、こした学生運動や闘争をリアルタイムに考えることはもちろん、学生運動の一部がその後連合赤軍へと至る背景など知る由もなかったけれど、連合赤軍が軽井沢にある浅間山荘に人質をとって立てこもった事件の生中継を授業中に教室のテレビで見た記憶が鮮明に残っている。

連合赤軍事件以後も、連続企業爆破事件や日本赤軍によるハイジャック事件などが頻発した1970年代という時代…かつてのこの国を覆い尽くした衝動は、高度経済成長やバブル景気という空気によってものの見事に吹き飛ばされ、洗い流されてしまったかに見える…。

いま私は、彼ら…『RED』に登場する若者たち…彼ら彼女らのどこかしらに同調はするものの、その行動を支持する気持ちは湧かない。
それはなぜなのか…。

あの時の…学生運動の…連合赤軍へ向かわせた衝動とはいったい何だったのだろう…。あれからいったい何があって 、そしてどうやって、いまここ に私たちはいるのだろうか…。
疑問は、私の中の何処かでずっと燻ぶり続けたままだ…。

とはいえ、あれから40年…この社会に満ちる空気は確実に変わったことだけは感じる。
いまや、私のような一個人が発する他愛もないこのような話しではあっても、それが少なからず社会を意識した話しであればあるほどに、その話しに加わることはもちろん、仮にその話題が気にはなったとしても、それに反応していることを周囲には感づかれないようにしなければならない気配が社会全体をすっぽりと覆ってしまっている…。

私がこうして美術を、Artを自分の生きる方法として選択していることも、建築に関わっていることも、TLUD Stovesをつくることも、森に出かけることも…
全ては、この世にありながらも目には見えない気配を感じたいと思うからだ。
私が感じるこの気配とは何であるのかが知りたい。
それが私とどう関係しているかについて知りたい…。

この気配をどう感じるか、どう表すかは人それぞれ。
でも、この世を生きる私たちの生命はどれもみな望む望まないに関わらず、繋がっているのだとすれば、私が感じるこの気配は、おそらく誰もみな感じているはず…この世を生きる誰しもが私と同じ気配を感じながら生きている。
ただ、表し方が違うだけだ…と私は思う。

誰か、何か…を 間違っていると責めたてるだけでは、それがたとえどんな問題であったとしても決して解決しないのではないか…と思う。
間違いや誤りを責めたてる先には分裂と崩壊、破滅がある…と。
それは単なる理想論にすぎない…現実を直視ししろ…諸悪の根源を断たなければ、いまを生きることすらできなくなるんだ…と言われるかもしれない。
…。
かつて、連合赤軍をはじめ武装闘争という行動に向かった彼ら彼女らの多くは20代以下だった。次から次へと沸き起こる社会に対する疑問や不信をきっかけとした自らの心の葛藤を、組織による武装闘争といいう方向に向けた。その発端は、極めて純粋で崇高な想いだったのかもしれない。

既存の社会のしくみ…議会制民主主義に対する不信や、偽りと言わざるをえない民主主義を掲げながらの既得権の誇示のための、利益追及だけを目的とするような政治に対する不信がいま以上に高まれば、平和なやり方では何も変わらない…ある意味、暴力も致し方ない…という気持ちが沸き起こっても不思議なことではない…。現に世界ではそういった民衆が次から次へと蜂起している…。

でも私は、あの歴史の延長線上にあるこの国に暮らし、生きている以上、そうではない可能性を探りたい。
たとえ相手のことがどんなに憎くとも…その関係を断ち切ることも、それを無かったことにすることはできない以上、未来はみんな一緒に生きたいと願う。
人は分かれてはならない…いや、分かれることはできないのだ。生命を分けて考えることはできないのだから。

写真:wikimedia.org

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