「Smokey Mountain」

レイテ島を中心にヴィサヤ地方のサマール州、セブ州、イロイロ州、パラワン州のほか、去る10月15日に発生したマグニチュード7.2の地震の被災地であるボホール州など、多くの地域が猛烈な暴風雨にさらされ、各地で洪水や土砂崩れなどによる甚大な被害が発生しています。
台風被害に見舞われた方々へのご支援 ご協力を。

1998年の年末から1999年の2月までフィリピンに滞在していたことがある。
私にとっては数回目、妻にとっては初めてのフィリピン。娘はまだ生まれてきていなかったその頃。
これから先、自分はどうするのか…という疑問をどこかで払拭したかった私は、クライミングしすぎで故障した腕のリハビリという無理やりな理由をつけ、フィリピンのクライマー仲間のお世話になりながら、クリスマスから年末年始はマニラで、年明け早々にマニラがあるルソン島の南西にあるパラワン諸島に移動し、島の北のはずれにあるエルニドとういう小さな町にしばらく滞在していた。
帰国した翌月…老朽化した木造賃貸平屋住宅を借り、目的はさておき、とにかくその建物の改修を始めることにした。それは結局のところ、「自分は所詮つくりながら…動きながらじゃないと生きられない…」という半ば開き直りにも近い決断だったけれど、あの2ヶ月あまりのフィリピン滞在が少なくとも私が いまここ に至る上で極めて重要な2ヶ月だったことは間違いない。

フィリピンの首都マニラを含めたマニラ首都圏の人口は2,129万人(2011年)
東京圏(3,700万人)、ジャカルタ、ソウル、デリーに次いで世界第5位の大都市圏を形成している。
その、マニラ首都圏のケソン(Quezon)から北へ1時間ほど…ルパンパンガコ地区に、パヤタス・ダンプサイト (Payatas Dumpsite) という広大な廃棄物処分場がある。
かつて1990年代半ばまで、メトロマニラ港湾部のトンド地区にあった、スモーキー・マウンテン (Smokey Mountain) と呼ばれる最終処分場が、貧困問題に関する国際的な批判対象となりフィリピン政府はここを強制的に閉鎖。
その結果、それまでスモーキー・マウンテンやその周辺で廃棄物を拾ってかろうじて生活できていた人々…スカベンジャー(scavenger)と呼ばれる人々の多くがパヤタス・ダンプサイト周辺へと移住を余儀なくされた。
首都圏から出る膨大な廃棄物は、パヤタスにまったく分別無しに集められ、そこには巨大なごみの山と谷が作られ、そのゴミをスカべンジャー達が仕分けする…。
周囲にはスカベンジャー達の簡素なバラック、彼らが集めた有価物(資源ゴミ)を買い取る業者のバラックが建ち並ぶ。こうして、かつてのスモーキー・マウンテンに勝るとも劣らないスラム…通称 スモーキー・バレー (Smokey Valley)が形成されることになったということだ。

私と妻が1998年から1999年にかけてフィリピン滞在中、クライマー仲間に誘われ、郊外のクライミングエリアに行くことになった。
その道すがら…それまでの街とは何処か異なる気配の街中に入ったかと思うと、バラックが立ち並んでいる光景が目に飛び込んできた。
そこは私がそれまで見たフィリピンとは明らかに異なる場所。ヘドロでぬかるんだ道はそのまま山道へと続き、道の両側はどこまでもがゴミで覆われていた。
帰り道…夕日に照らされてうっすら赤く染まっている山のシルエットを背景に、あちらこちらから、煙が立ち昇っているのが見えた。
車がその山に近づくと、先ほどのあの煙がゴミの山のあちらこちらから立ち昇っているのが見える。
夕日に照らされた煙の中にかすみ佇む人…。
そのゴミの中に埋もれるように建てられたバラックの屋根の下、しらじらとした蛍光灯の明かりに照らされたビリヤード台があったあの風景を鮮明に思い出す…。

私たちがそこを通過した一年後…2000年7月。
パヤタスのゴミ山が崩落し、約500軒のバラックが下敷きとなる事故が起こった。
この事故は、ごみ山の斜面が急すぎたうえに、台風の雨が一週間以上も降りつづいたことが原因であると考えられてはいるが、公式に確認された死者は234名、だが実際の犠牲者は400名とも800名とも言われている…。
この事故から4日後、一度は閉鎖されたパヤタスだったが、メトロ・マニラの廃棄物処分場の処理能力が危機的な状況になったため2001年半ばに再開され、現在に至っている。

先日、東京三鷹にあるヤドカリハウスの山田征さんにお会いした。
私の母と同じ歳の山田征さんは、来年早々、メトロマニラのトンド地区にあるスラム…トンド2の支援活動に行く際に、私のつくったTLUD ウッドガスストーブを持ってゆき、是非そこに暮らす人々に見せたい…彼らならきっとすぐにこれをつくるはずだ…ということで、その制作を依頼された。
その時、私が一緒に行けるかどうかはわからないが、そもそもこのストーブへの関心は、私の中にずっとあり続けている、あのパヤタスの風景があったからだ。
この繋がりに心から感謝したい。

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