「想像力」

先日、美学創造舎マゼコゼで、「生命」「美しさ」についてを共に考え、共につくるためのワークショップとして、第1回「火の哲学~火の力」を行った。
第2回は、7月22日(火)10時~15時
「火と暮らし~木を燃やす」 

今回のワークショップは私の中にあり続けている疑問からスタートする。
長野に戻り暮らし始めてから私にたくさんの気付きをもたらしてくれたものの一つ…RocketStoves。
私にとってのRocketStovesの重要性とは、その機能性のみならず、目には見えないものを感じることができるものという重要性がある。…しかし、私の内にはその重要性を伝えきれていない…というジレンマが鬱積してしまった。
この状態のままであるのなら、RocketStovesに関するワークショップはやらないほうが良いのではないか…この疑問が今回のワークショップシリーズの発端だ。

ここ数年、またたく間に、ロケットストーブという名称が知れ渡り、全国各地でロケットストーブづくりのワークショップが多数開催されるようになった。
”ワークショップ”がつくり方講座…と、ほぼ同義語となっている現在、ロケットストーブワークショップの大半もまたロケットストーブのつくり方講座であるとも言える。

RocketStovesの作り方を覚えた人が次の人にその作り方を教えることができることは、RocketStovesにとっての大きな必要性であり、ここに異議を唱えるつもりはない。
だがしかし、RocketStovesがなぜ人から人へと伝えられる仕組みとなり得るのか…ここを抜きにRocketStovesは語れない。

RocketStovesの背景にあるもの…それは、私たちが生きるこの社会の「いま」
私たちが生きる『いま・ここ』とは、どんな『いま・ここ』であるのか…RocketStovesが目には見えない『いま・ここ』を感じる為の手立となり得るのか…RocketStovesの先にどんな未来を想像することができるのか…
今回シリーズで開催するワークショップは、単に作り方を伝えるのではなく、まずは私がRocketStovesと関わることによって見えてきたこと、私が感じる『いま・ここ』から話し始めてみようと思う。

RocketStovesが開発された背景には、発展途上国における健康被害、熱帯地域を中心とした急激な人口増加問題、エネルギー問題があるが、こうした問題はすべて、いま世界規模で深刻化する『貧困問題』に集約される。
こうした深刻な問題の解決方法の一つとしてとして1982年頃にアメリカのNGOによって研究開発されたRocketStoves。
その基本構造は実に単純でありながら、高度な熱力学によって導き出された科学的根拠を携えている。

だからと言って、なぜ いま、RocketStovesなのか…
ここを考えるために、ワークショップでは、「生命」「美しさ」とは何か…「火とは何か」をRocketStovesについて考える為のきっかけとして取り上げる。
そしてまず第1回「火の哲学~火の力」では、私が最近書いた文章…「ネアンデルタールの火」をテキストとして、私に想像力とは何か…についての大きな気付きを与えてくれた、フランスの詩人、哲学者であるガストンバシュラールに触れることにした。

赤々と燃える焚き火。
その炎を見つめながら薪が爆ぜる音を聞いていると、かつて狩猟と採取によって暮らしていた人間と現代に生きる私との間には、いったいどれほどの違いがあるのだろうかという想いが沸き起こる。(ネアンデルタールの火「火の力」)

想像力とは何か…私はなぜ想像するのか。

「意思よりも生の飛躍そのものよりも、より以上に心的生産の力そのものである。心的には、われわれはわれわれの夢想によってつくられるのだ」(ガストン・バシュラール『火の精神分析』p.181)

バシュラールは、見なれないものを目にして驚いたり、予期せぬ動きや構造に触発されそこにあるものとは別のモノやコトへと思いが膨らんでゆく…そのような時に働く想像力を「形式的想像力」とし、これに対して、燃えさかる炎を見て、その美しさに魅入られたり、川面のせせらぎや、水の動きに心が奪われる…といった、物質の直接的なイメージによって、わたしたちの想像力がかきたてられ、さらにその奥底へと意識が開かれてゆく時に働く想像力を「物質的想像力」と呼んだ。
ものの多様性や、色や形に美しさを感じたことを発端に、そこからさらなる美しさを探し求めようと外へと向かう「形式的想像力」と比較すると、「物質的想像力」は、はるかに内省的で、物質に内在する原初的なものや永遠的なものを求め、存在に対する深い考察を促してゆくものであると考えた。
さらにバシュラールは、この「物質的想像力」は、古代からこの世の四元素(エレメント)として捉えられてきた、火、空気、水、大地と深く関係しているとして、想像力の領域における「四元素の法則」が確立できると主張する。

RocketStovesというものめずらしさ、多様性や可能性が人を惹きつけること。RocketStovesが人の想像力を掻き立てることは、この社会における貴重な可能性であると思う…。

市場に対し次から次へと生み出される新商品や新製品は、私たちの想像力のうちの「形式的想像力」を掻き立てる…とも言える。
もちろん「形式的想像力」が、私たちにとって欠かすことのできない重要な想像力ではあるものの、たとえば現在の学校教育における図画工作や美術といった学びによって育まれる想像力が「形式的想像力」の育みに傾きすぎていやしないだろうか。
そこには何かが足りない…そう思うのは私だけなのだろうか。
バシュラールの言うところの、「物質的想像力」の育み…
美術やArtはそれを育むことができるのであろうか。
私にはRocketStovesの中に…、そこで燃える火の中に、物質的想像力を育む何かがあるような気がしてならないのだが…。

科学における普遍性に裏打ちされた社会に生きる私たちは、ともすれば、見たことも…感じることもできないことさえも、科学によって検証されている…と信じて疑うことができなくなってしまう。
しかし、科学によってつくられた認識…科学的な自然法則と、私たちが実際に手で触ることのできる自然の法則…との間には深い断絶がありはしないだろうか…。
ここに橋を掛けるにはどうすれば良いのか。

RocketStovesがその橋となり得るのかどうかはわからない…。
しかし私はRocketStovesに内在する原始的なもの、永遠的なものに意識を向けてみようと思う。
そこには確実に、水と空気と大地によって育てられた木が燃えているという事実が、そこに火がある。

全ての存在に対する深い考察が育む、物質的想像力。
自らの内にあるであろう原始的なもの、永遠的なものを感じ、想像しながら生きたいと思う。

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