そこにあるのもの、そこにある力でつくる

課外講座 「アートを使いこなす力を育む場づくり」の前に、これらのテーマに関連することについてふれてみたいと思います。
今回はその2回目です。
 
  
そこにあるのもの、そこにある力でつくる
   
フィリピンの首都、メトロマニラの北西部に位置する世界有数の人口密集地帯、トンド。かつてここには、通称、スモーキー・マウンテンと呼ばれるゴミの最終処分場があったことで、周辺はスラム化し、現在に至ってもなおトンドには多くの貧しい人々が暮らしています。
数年前のこと、トンドのスラムに暮らす人々に対して支援活動をしている知人から、私が自作している通称、TLUD Stoves(火を燃やす際に煙が出にくい木を燃料とする調理用コンロ)が、トンドで暮らすurban poorの人々の生活支援策として活用できるのではないだろうかとの相談を受け、2種類のTLUD Stovesを制作し、トンドへと持って行ってもらったことがありました。
後日、現地の支援団体の方から私宛のお礼と現状報告の手紙が届きました。手紙にはトンドの生活支援策として有効な手立てとしたい…とのことに加え、「…しかし、こちらには送ってもらったStovesにあるような綺麗な円形の穴をあける道具が無いのです」…との内容。
私が送ったStovesは、ペンキ缶を改造したものと、自動車オイルが入っていた大きめの缶を改造した2タイプ。どちらの材料も現地で調達できそうな廃材で事足りるとは言え、加工には金切ハサミとペンチ、電気ドリル、数種のドリル刃、そして、大きな穴を開けることのできる、ホールソ-という特殊な刃を用いていました。
トンドならペンキ缶やオイル缶はいくらでも手に入るはずだし、燃料として燃やす木屑や紙だって幾らでも手に入るだろうし、これだけ簡単な仕組みなら後はどうにかなるだろうと思っていたのですが、自作とは言え私の作ったStovesは日本製、穴の大きさや形状も日本製なのです。
そもそも私がロケットストーブやTLUDに注目するようになったのは、そこにある材料、そこにある力を用いてつくることによって、いま自分たちが何処にいるのかを知る手立てとなるのではないかと思ったから。
機能の完璧さはさして重要なことではなく、何よりも、「生きる力とは何であるのかを教えてくれるものであること」と思ったからでした。
でもそれは、丸い綺麗な穴を開けることができる国の材料でつくったものだったのです。
それをつくる時、そこにある力のことについて私は深く想像していませんでした。
大切なことは、そこにある材料ではなく、そこにある材料を「探し出す力」そして、「そこにある力がどんな力であるのかを知ること、想像すること。」
綺麗な穴を開けることと生命力はけっして無関係ではないのだと思います。

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