「道具と進化」

「道具と進化」

ものつくりが生業である自分にとって、道具は欠かすことのできない大切な相棒だ。
道具フェチを自認する自分は、つくりたいことよりも、つくる道具が先にくることも多々ある。
アトリエの奥にはたった1回しか使ったことがない道具も多いけれど、それでも、道具から広がるイメージはとても大きいことを思えば、それを無駄だとは言えない。

人の歴史は道具の歴史でもある。
自分にとって、いまだこれを越える映画はないと思っている、スタンリー・キューブリック監督による「2001年宇宙の旅」
ある日、水場争いに勝利した猿人が、歓びのあまり、骨を空に放り上げると、これが最新の軍事衛星に変る…。
公開から既に50年が経つにも関わらず、いまだこの映画が難解と言われ続けていることを考えれば、いくらテクノロジーが進歩したなどと言っても、あの猿が骨を手にしてから人類は、所詮、敷かれたレールの上を歩いているだけなのだろうな…と思ってしまう。
とすれば、人類はあれからいままで進歩などしていない。人類が用いる道具はすべて、単に骨の各種バリエーションであるに過ぎないのかもしれない…。

そんな屁理屈はさておき。
ものつくりの道具に限らず、道具の多くは、初級者向けから上級者向け、さらにプロ用。安い〜高いといったようにカテゴライズされて売られている。
もちろん、使用頻度や使い方によってそうせざるを得ないことは理解できるものの、自分が常々ものつくりをしていて思うことは、ものつくり初級者だからと言って、価格が安い道具や、使い難い道具を使っていたら、結局は上手にものがつくれないし、何より ”危険度”のリスクが高い。結果、それよりも良い道具を購入することになるか、つくるのをやめるかといった選択肢を辿ることになる。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190706-00010001-bfj-sci&fbclid=IwAR1wa_skzYutLO1KQGN5zmy8Mgj7sPWfL7jUVhO4vzZ4QRDJ3ktj9v_bSNI

自分は、ものづくりに於いては「できることは自分で」が基本だと思ってはいるものの、何がなんでも手作業が一番だとは思っていない。
人間の力は侮れないとは言え、その力には限界もあるし、人によって持てる力には大きな違いもある。
手づくりをしたいという人に、止めろとまでは言わないまでも、作業に適した、自分の力に合った道具であれば、それを使ってつくる方が、ものづくりはずっと楽しくなると思っている。

ホームセンターに行けばありとあらゆる道具が並んでいるし、価格も色々。道具メーカーにしてみれば、少しでも売上を伸ばしたいと思うのは当然で、同じブランドであっても、価格帯が異なる商品を多数取り揃えてはいるものの、どんな作業にどんな道具を使ったら良いのか、どうやってその道具を使うのかについては、かなりいい加減な情報しか用意されていない。
ホームセンターのスタッフが、あらゆる道具についてを熟知しているとは限らないので、道具についての解説には限界があるのは仕方ない。ただ、こういった状況のままでは、たとえ作りたいと思ってはいても、自分でつくれるようになるのは難しく、道具の選択についても、使用方法についても、道具の使用によって起こるかもしれない危険についても、すべて自己責任…というこの社会のお決まりのループへと追い込まれてしまう。

自分の仕事は何かを聞かれて、依然として戸惑いは隠せないが、まず第一に「自分でつくるものづくり」をもっと暮らしへと近づけたい。
いま、「自分でつくること」は暮らしからどんどん遠ざかってしまっているのが現実で、自分自身は、「自分でつくるものづくり」をもっと暮らしへと近づけることが仕事だと思ってはいるものの、そうした想いと現実との間のギャップはまだまだ大きい…。

ものづくりに限らず、専門家が専門の仕事だけをするようになると、専門という領域が益々細分化され、必ず何処かに、それを専門とする人がいて、もはや自分でつくる必要など何処にもないほどに、つくる隙間は埋められてゆく。
例えば、住宅産業はその典型で、螺子一本、接着剤の種類までが細かな法規とも連動しつつ、システム化され、既に家は自分ではつくれないものとして定着している。
これによってこの産業に関わる人々の仕事は確保されるという経済構造は理解できてはいるものの、専門の材料を専門の人が専門の道具をつかってつくるというシステム、こういった様々な経済システムが幾重にも折り重なってつくられる社会の中では、人間はいつまでも敷かれたレールの上でしか生きられないことは確かだと思う。

経済構造を敵に回して戦うつもりはないけれど、いま、自分でつくる自由について考えるための場の必要性を強く感じる。
まずは、自分が抱えている道具を、大きいものから小さいものまですべての道具を、即時解放するための準備を進めている。

©2018 Warner Bros. EntertainmentInc.
2001

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