今シーズンの雪は凄い…という長野を抜け出し、気温+20度の屋久島へ、竈(かまど・キッチンストーブ)をつくりに行ってきました。
この竈はヨガマスターであるDario Calvaruso(ダリオ・カルヴァルーゾ)の屋久島の自邸の建設に合わせたもので、国立市に暮らしていた頃からの友人でもある、WAKUWORKSの建築家・和久倫也氏が建物を設計。かつてWAKUWORKSの事務所内にロケットマスヒーターをつくらせて貰ったこともあって、屋久島のダリオ邸のキッチンストーブを制作することになったのです。
自己探求のためにインドで15年以上に渡って旅を続け、ヨガ、哲学、サンスクリット、アーユルヴェーダを学んだというダリオは、日本が育んだ多様な文化に対して多大な関心と尊敬を持っていて、日本の文化を学びながら、自然との共生のかたちを自らが表現するには屋久島という土地が最適だと感じたのだそうです。
いま、そんな彼や彼のような外国人が増えていて、そんな彼らの姿勢から逆に、日本人が学ぶべきことはとても多い気がしています。
建物は畳が敷かれた二階の一部屋と台所のみ。
緩やかな斜面に建てたられたこの建築の住居部分は屋久島の湿度を考慮して、いわゆる高床式の建物構造。台所は南側の庭に面した一階。
薪を燃料とする竈は、正座して調理できる高さにして欲しいというダリオの希望から、インド式…というか、インドのNGOが農村部の住環境改善策としてで普及指導している Salala Stovesと名付けられたStovesを参考に、当初はこれにRocket Stoves燃焼方式を組み合わせた、一つの燃焼室からなる竈を設計していましたが、自分が屋久島に来てから、ダリオからの希望によって急遽、湯沸かし用に日本式の竈をもう一か所追加することにしたハイブリット型となりました。
今回の遠征制作は、未だかつてない多くを学ぶことができたと思っていますが、自分の今後…おそらく残りの自分の人生に対する多大な気付きをもたらしてくれたような気もしています。
地元、長野と比較して、+20度という温度差、海と山とが一体の屋久島ならではの自然環境ゆえの違い。そこから垣間見える、島の暮らしの豊かさと厳しさ。日本という国が歩んだ歴史。国という概念を超えた人間としての歩み…。
屋久島に着いたその日から島を離れる直前迄ずっと、現場と宿の往復と温泉と犬との散歩しかしていないけれど、その日々は充実に満ちていたいました。
竈(かまど)と一言で言えども、竈という存在は単なる調理道具とは異なるものだと思っています。
世界中の様々なそれは、多かれ少なかれ何らかの神聖さを持っていて、人は竈に祈りを捧げるその共通性は実に興味深いと思います。
どの視点から竈を捉えるかによって語る内容に違いはありますが、竈とは何かについてをあえて一言で言うとすれば、竈とは「関係性の現れ」だと自分は思っています。
例えばそれは、水と火との関係性、火と土の関係性、植物と火の関係性…などなど。
人間の命と竈の関係を紐解いてゆくと、そこに、自然とは何か ということについての答えを感じることができるのではないかとも思っています。
かつて縄文時代の竪穴式住居の中で焚かれる火の上では調理は行われていなかったのだそうです。
火は寒さや湿度を調整し、人の命を守るためのに欠かすことの出来ないものであり、そこでは当然のこと、火に対する何らかの神聖さを感じていたであろうし、その火が消えることは命の終わりにも繋がっていたと捉えることができるでしょう。
そう考えれば食物を調理することによって万が一火を消してしまうことは避けたであろうし、水を使う調理は、家の火から離れた別の場所で行ったと考えるのが自然だと思います。
その後、時代が変化して家の中で調理するようになっても、竈は火の神が宿る大切な場所として存在していました。
その竈が無くなった後、竈に宿る神は神棚へと移ったと考えることが出来ることから、日本文化の根底にあると考えることの出来る信仰の姿にとって、竈は極めて重要な手掛かりだと自分は思っています。
屋久島で採取できる粘土は赤みのある美しい粘土です。
場所によって色の違いはあるかもしれないけれど、今回の竈をつくった屋久島の南側の粘土は赤みのある土が殆どで、場所によっては、屋久島の山々を構成する花崗岩が風化して土に混ざっていて、土間と呼ばれる…三和土(たたき)をつくるために最適な真砂土に近かい土が多く出土します。
この赤土が島特有の芋に適しているのでしょう。
屋久島は一か月のうち35日は雨…と言われるほど降雨量の多い場所で、島の家の壁の殆どは木の板で覆われているようでしたが、湿度が高くカビが発生し易い環境の中であっても、少なくとも室内に於いては土と漆喰がもっと使えるのはないかと感じましたがどうなのでしょうか…。
今回のダリオの家の内部は土壁で仕上がる予定です。これに加えて室内の風通しを良くするように設計されているので、今後の屋久島の家にとっても大きな参考になることでしょう。
日本の伝統的な家屋の多くは基本的に夏の湿度を如何に和らげるかにあります。
そのことからすれば、自然共生型の家のあり方としての土の利用。
そしてそこにはきっと、火と共にある暮らしの姿があるのではないかと感じた今回の屋久島遠征でした。
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