8か月間の犬のいない暮らしを終えて、また犬と一緒に暮らすことにした。
今年4月のはじめ、10歳になる直前だったビーグル犬のピスが死んでまもなくして妻の母が亡くなり、先月の終わりには自分の母も死去した。
世間的に考えれば不幸続きの一年ということになるのだろうが、事実、この一年は平穏な日々であったとは言い難い…。
とはいえ、人であれ犬であれ、一つの命がこの世から消えることによって今までとは何かが確実に変わるという出来事を経験することは極めて貴重な出来事であると言えるし、そうした出来事をこの短期間に幾度も経験したことによって今後の自分や自分の周辺がどう変化するのかはとても興味深いことだと思っている。
いまは、この世から彼の世へと旅立ったそれぞれの命に心からの感謝を。
ビーグル犬のピスは、東日本大震災があった2011年9月に我が家へやって来た犬だった。
小学校3年生になる娘の誕生日にかこつけて、震災によって飼い主と離ればなれになってしまった、いわゆる被災犬を数頭保護しているというシェルターから、我が家へと保護犬を迎え入れようと思っていたのだが、そのつもりでいた被災犬はちょうど別の人のところへと行ったばかりということで、その代わりと言うか、ブリーダー(繁殖)の放棄犬から生まれた子犬が同じシェルターにいて、その子犬たちの中の一匹がピスだった。
元々は野兎の狩猟犬として飼われていたというビーグル犬は、ペットショップで売買される以外も、優れた嗅覚がかわれて、空港や港の違法薬物密輸を検知するために活躍する一方、様々な研究の動物実験に最も多く利用される犬であるそうだ。
もちろんブリーダーをすべて悪く言うつもりはないけれど、ビーグルに限らず犬であれ猫であれ、命が売買されるという目的と現実の元、繁殖によって生まれた命のすべてがその後どう扱われるかについて、何処までその責任を感じているのか…。少なくとも人間と同等の命として扱われてはいない例は後を絶たないし、動物の命の権利は人間社会では何ら保証されていない…これは、ブリーダーやペットショップの問題と言うよりはこの社会が抱える深刻な問題なのだ。
およそ10年間共に暮らした犬がいなくなったことによって喪失感はあれど、そのいっぽうで、少なからず解放感も感じていた。
犬と一緒に入れる店、泊まれる宿はほんの僅かしか無いし、犬の存在が自分たちの行動を制限してもいたし、もしも犬を飼っていなければ…と思うことがあったのも事実。
ここ最近になって、犬や猫の保健所への連れ込みが大量に増えていると聞く。
すべてがこのコロナ禍の影響だと言うことは出来ないまでも、それでも、コロナ禍になってからペット販売は好調だったそうで、何となく飼い始めたものの、飼い続けるのは想像していたよりも大変で、これ以上飼うことが出来ない…と言う人が保険所に連れ込むケースが後を絶たないのだそうだ。
ピスが死に、母に癌が見つかり、日に日にその病の影響が広がってゆく姿を見つつ、この世にとっての絶対について、そしてまたこの社会は、その絶対について考える思考を麻痺させてしまう様々な仕組みに覆い尽くされていることをそこかしこに感じていた。
我が家へとやって来た犬は、多頭飼育崩壊の現場からボランティアによって保護された、推定4歳~5歳?になるオスの芝犬とコーギーのミックス犬?
老夫婦が大量の犬を屋外の犬舎の中で飼っていたそうだが、ボランティアさんから聞いた話しによると、餌は残飯を投げ入れるだけ、どの犬も一度も散歩に連れ出されたことが無く、おそらく病気に対して何の予防も処置もされていない。もちろん去勢も避妊もされていない…。
実はいまこうした多頭飼育崩壊が増えているのだそうだ。
状況は様々だが、色々と調べてゆくとそうした背景には、どうやら社会の高齢化と孤独という問題があり、そこと大きく関係していることに気付く。
考えてみれば自分にしても、単に犬が好きということだけでなく、少なからずは犬がいることによって心の奥底にある孤独感や寂しさを埋めようとしているのかもしれない。
そうしたきっかけが犬と暮らすという選択に繋がるにしろ、犬の存在が社会問題へと発展しまうのは、人間社会全体の在り方によるのではないだろうか。
高齢化したり病によって自由な行動が出来なくなってしまい、結果的に他者との関係づくりが希薄になってしまう…。そうしたところに端を発し、結果、社会問題となっているのが動物虐待であるとすれば、それは動物が原因なのでは無く、我々人間がこの社会をどうつくってきたのの問題であって、悲しいことにその問題を放置した結果を動物に押し付けているということではないのか。
保護犬を一匹ぐらい飼うことで、その責任から逃れられるとは思ってはいないけれど、もの言わない犬が人間社会をどう見ているのかについてを想像することは自分にとってこの世の絶対を考えるのと同様に大切なことだと思っている。
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