『わからなさ』を、わからなさ として持ち続ける

Gallery MAZEKOZEでは2月1日より、「渡辺一枝とたぁくらたぁな仲間たち展」を開催中で、ゲストを交えた2回のトークの内、2月4日に行われた第1回目には、福島県南相馬市小高にある、「俺たちの伝承館」館長・中筋純さんをお迎えし、渡辺一枝さんとのトークを行った。

この企画展は、地元、長野から発行されている雑誌「たぁくらたぁ」と、その雑誌名でもある、北信州の「たぁくらたぁ」という方言に注目したGallery MAZEKOZE主催の企画展。

作家・渡辺一枝さんからは、“まな板の上の鯉“になったと思えばいいのですね…とご協力を頂いてはいるものの、「やっぱり、なんだか良くわからない…」という感想どおり、難解な展示になのかもしれないことは自覚している。

正直言えば、この展示は自分(小池雅久)にとっての最大の興味である、「いま・ここ である社会という現象を、まざまざと感じるためにはどうすればよいのか」について、いま自分が考え得る幾つかの内の一つ。それが、雑誌「たぁくらたぁ」であるということなのだ。

だからと言って単純に、「たぁくらたぁ」を読めば社会をまざまざと感じることが出来るということではなくて、自分が注目するのは、「たぁくらたぁ」というその言葉と社会との関係性こそが重要ではないかと。

北信州生まれの自分ではあっても、日常の中では聞いたことも使ったこともない「たぁくらたぁ」という方言。

たぁくらたぁ編集長の野池元基さんが持って来られた資料の中に、民俗学者の柳田国男の「たくらた考」という一文がある…。

「たくらた」は「田蔵田」とも書き、「麝香(ジャコウ)といふ鹿と形のよく似た獣だったといふ(中略)その田藏田は香りがないので、捕ってもすぐに捨ててしまふ。だから無益に事件のまん中に出て来て殺されてしまふ者」と書かれていて、そこから、「馬鹿者」とか、「オッチョコチョイ」「ショウガネエヤツ」「ノンキモノ」などのことを、いささかの愛情を込めて「コノ、たぁくらたぁ!」と言うようになったのではないかというその説は、それはそれとして実に興味深いと思う。

でも自分は、北信州生まれではあっても、日常の中では聞いたことも使ったこともない「たぁくらたぁ」というこの言葉は、雑誌「たぁくらたぁ」でしか知らないし、そう思うと既に、方言とは違った、もしかすると、その言葉が持つ本質が現代社会に呼応しながら現代語としての意味を纏いつつ変化、浸透し始めているのではないか?とも思うのだ。

そしてまた、現代語としての、「たぁくらたぁな人々」がいて、そうした人々に「共通する何か」があるのではないかと。

それについて探り、考えるのが今回の企画展、「渡辺一枝とたぁくらたぁな仲間たち展」の最大の目的だと言ってもいい。

となると、この展示にとって最も重要な人物でもある、作家・渡辺一枝さんを自分は、「たぁくらたぁな人」だと思っているということになるのだけれど、先日のトークにお迎えした、「俺たちの伝承館」館長の中筋純さんもやはり、たぁくらたぁな人ということだ。

そんな「たぁくらたぁな人々」が果たす役割があるとすればそれは何か。

この展示を見て、感じて頂くことをつうじて、是非それについて話しがしたいと思っている。

2011年.福島第一原発の事故が起きてしまったことによって、自分の中に漠然とあった、この世がこの世であるためには、「わからなさ」こそが重要ではないか…と思っていたそのことがより明確になった。

「わからなさ」は、わからなさとして持ち続ける必要がある…というか、「わからなさ」を心の中に抱き続けるためには勇気が必要…と言ったほうが良いかもしれない。

日常の暮らしはどんどん便利になって、何かわからないことがあっても、ほんの少しだけインターネットを使いこなせれば、誰でも簡単に、何であっても瞬時に知ることが出来る…気がしてしまう。

自分を含め、現代人にとって「わからなさ」とはいつしか情報の足りなさだと錯覚してしてしまうほどに、様々な情報と仕組みは私たちが生きるこの社会から「わからなさ」を奪い取ってゆくし、無知や、劣っているといる証拠にされがちな「わからなさ」は、恐怖であるとさえ思われがちで、気が付かないうちに誰もが、「わからなさ」を口に出さなくなると、本当はあることであっても、「わからなさ」という理由によって無かったことにされていってしまう。

本当は、この世は「わからなさ」で満ちていることを誰もが知っているはずなのに。

自分が「たぁくらたぁ」が気になって仕方ないのは、やはり、無益に事件のまん中に出て来てしまう「馬鹿者」であり「ショウガネエヤツ」「ノンキモノ」だからか。

でもそんな たぁくらたぁ だからこそ、世間を覆い尽くす息苦しさから抜け出るために必要な何かしらがある気がしてならないのだ。

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