「アップルパイ」

白馬「深山の雪」のパティシエがアップルパイつくりたいのにバターが無い…と言っているそうだ。
これは大変!! 日曜日に行われる、木村×上野対談の後、みんなでアップルパイが食べれるかもしれないのに、えらいこっちゃ!!!
バター無しのアップルパイもあるそうですけど…と、パティシエのお父様に言ってみたものの、あれ?あれれ?牛乳はこんなにあるのになぜバターだけが??…という疑問は残ってしまった。はたして日曜日にアップルパイは食べれるのだろうか…。

 

…で、なるほど…
バター不足の背景にはやはり…。
バターの輸入は農水省所管の「農畜産業振興機構」が独占して行っているそうだ。
http://www.alic.go.jp/about-alic/organization.html

 

日本は国産バターを保護するという理由によって輸入バターには特殊な関税割当制度が適用されている。
民間業者がバターを輸入しようとすると、一時税率(関税35%)に加えて、二次税率(1キログラム当たり関税29.8%+179円)の高率の税金が掛か る。そのうえ更に、輸入業者はバター輸入を独占している農畜産業振興機構に1キロ806円のマークアップと呼ばれるマージンを収める必要があり、国際価格 500円のバターを1キログラム輸入した場合の価格は1,634円に跳ね上がる。
通常の食品であれば、国産が足りなければ民間の事業者が輸入すればそれで済むはずなのにバターについてはそう簡単にはいかない理由がここにある。
バターが不足すればどんなバターも売れるとは言え、民間事業者はこの関税割当制度によって国内産との差額を抑えなければならず、少しでも安い輸入バターを求めるのも当然で、そういった状況が食品の安全性にも少なからず影響するであろうことも想像される。
独占輸入とマークアップによる農畜産業振興機構の収入は毎年11億円にのぼり、この一部が同機構の役員報酬の原資となっているとも言われてはいるものの定かなことはわからない。
いずれにせよ、私が日曜日、アップルパイを食べれるか食べれないかという危機、そして来月、全国の子供たちにクリスマスケーキが行き渡るかどうかという不安は、農畜産業振興機構による輸入数量のコントロールによって引き起こされている可能性は大きいということなのだ。

 

小麦も同じ。
小麦や米といった穀物は、主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(食糧法)によって実質的には国家による価格統制が曳かれている。この法によって農水省は安い輸入小麦を無関税で全量買い取り、国内の小麦農家のために支払われる補助金原資となるマークアップ(マージン)を1トンにつき2万円ほど上乗せし、国際相場の約2倍で製粉会社に販売している。
日本の小麦の需要量(年間約550万トン)の9割は外国産に対して国産小麦の生産量は74万トン、生産額は260億円。結果、消費者は高いパンや麺など、小麦製品を買わされることになり、ここに生じる差額が農水省の差配を通じて国内の生産者への約1300億円にものぼる補助金となってゆく。

 

補助金が給料の5倍貰えるような申し出を断り、みんなが少しでも安いパンや麺や小麦製品が買えるよう汗水流し生産量を増やし、少しでも補助金額を減らそうとする人がどれだけでいるだろうか。
(たとえそれをしたとしても、小麦製品の価格は下がらないのだが…)
私は元来怠け者体質なのでそんな努力はしないと思うけれど、私のような怠け者でなくとも、働いた分の5倍もの補助金が貰えるのなら貰い続けるための働き方を考えてしまうとしても不思議ではない。
しかし補助金は泡銭…。
いくらいい加減な私でも、本来の給料の5倍もの補助金をもらい続けてしまったら、泡がはじけ飛んだその時、1/5の給料で暮らしてゆけるとは思えない…。

 

そもそも補助金とは何なのか…。
私の仕事をこと細かに説明するには、10,000字ほど必要になるので割愛するが、補助金事業や助成金事業に絡む仕事が多くある。
補助金申請が採択されたら仕事になり、採択されなければ仕事にはならないこともよくあることで、先の予定は立ちずらいけれど、近々の経済活動は期待できないものの、未来をあれこれイメージしつつ持続可能な道筋が見える補助金制度の活用であるのならば、それは現代社会のあり方の一つだと思っている。
しかし本来的には、補助金が無ければ事業は成立しないという状況は避けるべきであり、補助金に期待せず…何があろうと自力でやり遂げる強い心持ちとそのための方法を常に考え続けた先に補助金制度の活用策は置かれるべきだとも思う。

 

バター不足の背景にあるのは、生産者と消費者との間に存在する保護と振興いう名の複雑で巧妙な構造。
アップルパイが食べたいのならその前に、保護と振興が私達に何をもたらし何を奪うのかについて考えなければならないということなのかもしれない。

 
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