bookcoverchallenge 外伝」~Lloyd Kahn
シェルター自分が中学生のいつ頃かは忘れてしまったけれど、今は無き、善光寺門前の狭い本屋の片隅には古本が無造作に積まれていて、その山の中から自分が手にした古本はいまでいうところのDIY系の雑誌だったと思う…その雑誌の中にたぶん、1973年に出版された『シェルター』を紹介した記事があった。その雑誌では、電線を巻く木製のリールを部屋の机にしたり、拾ってきた空き箱で本棚をつくったりするアイディアが紹介されていて、お金なんか勿論のこと持っていなかった自分にとって、そうか!その手があったか!!の連続でわくわくしたのだったが、シェルターだったらしきその紹介記事はその中のほんのわずかだったものの、他のページとは違う、明らかに日本的ではない写真の数々が自分の脳裏に焼き付いたのだと思う。…というのも、それから20年以上が経った2001年。当時、東京・国立市でPlangterCottageという場づくりを始めたばかりの自分は、370㎜×270㎜の大型ペーパーバック、176ページからなる、シェルター・日本語版のページをめくるや否や、20年以上前にあの雑誌で見たあの写真の記憶が蘇ったのだった。人間の記憶回路がどう構成されているのかは解らないが、あの時に見たあの写真の数々の記憶の回路が蘇ったことに、何とも不思議な感じがしたことを思い出す。そしてその時から次の20年間…シェルターの1ページ1ページは、常に自分の記憶回路の表側に位置している。神社仏閣といった伝統的な建築に興味がないとは言わないけれど、自分はそうした伝統建築というよりは、どちらかと言えば、そういった建築に付随する庭園や庭に興味そそられる。庭や庭園は、人間の必要性である建築を本来のあるべき姿である自然の姿と調和させるためにあるような気がして、これまでに随分と色々な庭を見て回ったりしている…。大工技術と言えば、そうした伝統建築に携わる宮大工が引き合いに出されるし、確かに、そうした日本の伝統技術を継承する大工技術をはじめとした職人の技術は、世界的に見てもほんとうに優れたものであることは間違いないし、この困難な時代にあって、そうした伝統を引き継ごうとする人に敬意を感じつつ、そこに携わる人材が途切れないことを切に願っている。しかし、と言いつつも自分の興味と関心は実はそこには向いていない。自分の興味と関心を一言で言えば、そこにあるもの・そこにある技術で・お金をかけ過ぎず・その気になれば誰にでもできる建築…。これに尽きる。そういった意味からすれば、いわゆる日本の昔話しに出てくるような民家…建築は、自分にとっての完成形。勿論、古民家と言えども、並外れた高い技術力と立派な材料を使用して、これでもか!と言わんばかりの豪邸もある。でも、そうした建築にしても元を辿ればかつての農山村での暮らしと生活の場でもあった民家に行きつくし、自分の最大の興味は何よりもそうした建築に専門家ではない人々があたりまえのように関っていたこと。例えば農家に於いては農民が総出で家をつくっていたという事実なのだ。そうしたかつての家づくりについて色々と探ってゆくと、当時の暮らしと建築が密接に関わりあっていることが見えてくる。中でも、農家の家をつくるにあたっては、家づくりを統括・指揮する大工棟梁と建築に必要な適材適所の木を選ぶ杣(そま)棟梁がいる。家づくりが決まると、大工と杣の棟梁の指示に従って農家の中でも大工技術に長けている者は材料を刻み、山仕事に長けている者は木を伐り、里までその木を村人が総出で引き出したという。かつてのヒッピーの必読&必携書としていまもなお語り継がれる『ホール・アース・カタログ』の「シェルター部門」で編集を務めたロイド・カーンは、当初、20世紀のダビンチ”と称されたバックミンスター・フラー博士が提唱したジオデシック・ドーム理論によりつくられる球体の住居である「ドームハウス」の紹介と普及のための本を二冊出版している。その結果、カリフォルニアのヒッピーたちがこぞって建てたドームハウスはカウンターカルチャーににとってのシンボル的な存在にまでなったものの、低い耐久性に加え、なによりも自力するにはコストが掛かりすぎることに疑問を感じたロイド・カーンは、世界各地の気候や立地などの風土に応じてつくられるヴァナキュラー建築に注目、世界中の建築を見て回り、そして発行されたのが1973年のシェルターだった。そしてそこには勿論のこと、日本の農村に多く見られる古民家も紹介されている。豊かさの定義は未だ、モノをたくさん所有し大きな家に住む、あるいは、土地の値段の高い土地に家家を持つ…というところにあるのかもしれないが、それとは逆の、「最小限のモノしか持たず小さな家で暮らすこと」と定義するとすれば、そこには当然「豊かさとはなんなのか」という問いがあらわれる。私たちの誰もが今まさにその問いに直面し、それに対して一人ひとりが答えを出さねばならない時を迎えているのかもしれない。PS ちなみに、シェルターの表紙 左側上から二番目の女性。そして、アメリカンロードムービー「バニシングポイント」の中に登場するバイクに乗った女性は自分にとっての永遠の憧れ。
コメントを残す